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ODA ウォッチ: プロサバンナ事業 第17回

政治化される人々、地域に関わる意義と可能性

南アフリカ事業担当 渡辺 直子
2017年2月14日 更新
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2009年以降、「官民連携・投資促進」の掛け声のもと、日本政府はモザンビーク北部5州(テテ州、カーボデルガド州、ザンベジア州、ナンプーラ州、ニアサ州)における「ナカラ経済回廊開発」に積極的に取り組み、日本の複数企業(三井物産、新日鉄住金など)が石炭開発や鉄道・港湾などインフラ整備に投資している。5州のうち3州はプロサバンナ事業の対象地だ。しかし現在、この地域は現地の人びとが「内戦」と呼ぶ状況にある。いったい何が起きているのか。

「普通の人びと」を巻き込んでいく内戦

1977年より16年にわたる武力紛争を経験したモザンビークでは、92年の包括和平合意以降、「戦後復興の優等生国」と言われ、平和・民主主義の定着が進んできた。しかし、与党フレリモ党(紛争時の政権)とレナモ党(元反政府ゲリラ勢力で、和平合意後の最大野党)間の武力衝突が13年から再燃、15年に激化し、同年12月から翌年4月までに同国最大の炭鉱が存在するテテ州から1万人を超える難民が隣国マラウィに流出するにいたった。その理由としては、「政府側の武装勢力(軍・特殊部隊・警察など)の攻撃が原因だ」とする難民の声が多く報じられている(注1)。そこからは、「普通の人びと」がレナモと疑われることで弾圧され、行き場を失い、難民化している様子が見て取れる。

政府とレナモ間の武力衝突は、16年に入ってザンベジア州、ナンプーラ州にも飛び火した。政府側によるレナモ関係者の逮捕拘留や暗殺(未遂含む)などが相次ぐ一方(注2)、レナモの反撃は、同地域を通る鉄道の襲撃などの形で行われている。内陸部・テテ州の炭鉱からナンプーラ州のナカラ港湾をつなぐモザンビーク北部の鉄道・港湾インフラ整備は、ドナー国の官民連携による援助と投資が一体となった開発事業の象徴であり、国の外貨収入源である。日本は最大の投資・支援国だ。

こうした武力衝突が生じている地域に共通する特徴のひとつに、14年の総選挙および前後の地方レベルの選挙で野党が勝利/引き分けた地域であり、歴史的に与党の基盤が脆弱な地域であることが指摘される。ゲブーザ前政権(05〜14年)は海外投資導入を打ち出し、この地域で鉱物資源開発、大規模プラテーション植林やアグリビジネス、インフラ整備を進めた。その結果、住民(多くが小規模農民)の土地が収奪され、貧富の格差が拡大した。住民の抗議行動とそれに対する政府による弾圧・人権侵害が続いており、一連の選挙結果はこうした事態に対する人びとの不満が反映されている(注3)。今回の難民流出は、これらのことと無関係ではない。つまり、政府への反発≒ 野党(レナモ)支持の土壌に対する掃討作戦の体をなしている。

昨年の夏に筆者がナンプーラ州を訪問した際、小農たちが自国の現状を「すでに内戦状態にある」と口々に語っていた。政府が、人びとの犠牲の上に「開発」を行うことで政治基盤を失っているにも関わらず、抗議する人びとを「レナモ=反政府」として弾圧する。その結果、人びとが政治的組織の間の衝突に巻き込まれていき、その延長線上にこの「内戦化」がある。この4年間、残念ながら、そのことを痛感してきた。
そんな筆者宛に、昨年1月、面識のない現地の政府系新聞記者から突然こんなメールが届いた。

「モザンビークでは、プロサバンナ事業(への反対活動)はクーデターを行うために使われているという説があります。別の政党が政権の座に着くために、フレリモ政権を引きずり降ろそうという試みだと言われています。」
このメールは、「抗議の声をあげる者を国家転覆者として掃討する」道を、日本の援助がモザンビーク政府に開いた可能性を示唆している。しかしながら、日本政府は相変わらず現地の状況を「経済問題」の文脈のみで語り、「経済成長の効果」に乗じて、自国の国益や「投資・貿易のための援助」を謳い続けている。ナンプーラ州の女性農民リーダーは、そのような日本によるナカラ経済回廊開発・プロサバンナ事業を「悲しみの開発」だと訴えている。

JVCの地域開発事業がもつ意味とは

一連の出来事は、筆者にとって、自分の活動のあり方をも問い直す契機となった。平和研究の第一人者ヨハン・ガルドゥング博士は、戦争・紛争のない状態を「消極的平和」と捉え、貧困・抑圧・差別などの「構造的暴力のない状態」を「積極的平和」として提唱している。農民の声で再認識したのは、「難民を出さない社会づくりを」との思いで始まったJVCのアジア・アフリカでの活動やモザンビークの農民と取り組んできた活動は、「地域開発」や「政策提言」に留まらず、実は「紛争予防と平和構築」でもあったということだ。今、日本政府と私たち市民は、モザンビークのこれ以上の紛争拡大に加担するか否かの岐路に立たされている。なんとかこれを喰い止めたい。

◎注1...http://ngo-jvc.info/2iCDmyf、(モ国メディア)
http://ngo-jvc.info/2iCq2Kh(UNHCRサイト)など。
◎注2...http://ngo-jvc.info/2ixbhoG、(HRWサイト)
2015年4月28日開催第11回ProSAVANA事業に関する意見交換 会配布資料:http://ngo-jvc.info/2jqp0lqなど。
◎注3...2014年10月29日開催報告会「日本のODA によるモザンビークの農業開発事業「プロサバンナ」に関する現地調査報告と提言」配布資料:http://ngo-jvc.info/2isLwL7

No.324 「聖地」と呼ばれる街の「差別と暴力」に向き合う (2017年1月20日発行) に掲載】