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ODA ウォッチ: プロサバンナ事業 第16回

「時代遅れ」なニューアライアンス?

調査研究・政策提言担当 高橋 清貴
2017年2月 1日 更新
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今回は、この連載で取り扱っているプロサバンナ事業のような援助事業の背景にある、アフリカを対象とした新しい国際的な投資/開発政策の枠組みに関して取り上げたい。援助の現場で起きていることには、それが生み出される背景が必ずあり、私たちはそれを知る必要があるだろう。

民間投資によって貧困削減を促す枠組み

アフリカの農業開発に関して、その広大な大地を農地として活用する目的で民間投資を呼び込み農業ビジネスを活性化させる仕組みとして『食料安全保障及び栄養のためのニューアライアンス』(以下NA、注1)がある。2012年のキャンプデービッド・サミットで成立した比較的新しい政策枠組みで、「農業に関するビジネス市場」、「技術イノベーション」、「リスク管理」、「栄養」の4つの分野で民間投資を増大させ、具体的な政策行動については対象国毎にパートナーとなる国を設定して連携して開発計画を実施する、というものである。日本も当初からこのNAに参加しており、(米国とともに)モザンビークのパートナーとして94・1億円(1.18億ドル)の支援を約束している。

しかし、このNAは、農業分野への民間投資促進こそが生産性を増大させ、それによって自動的に食料および栄養不足が改善し、貧困削減が図られるという単純な推測に基づいている。また、その策定プロセスにおいても、小規模農家の参加を欠くこと、制度変更に対するリスクについての十分な検討がなかったことなどから、発表以降、世界中の市民社会や専門家がこのNAへの懸念を表明している。国連人権理事会食料への権利(前)特別報告者であるOlivier De Schutter氏も、その問題点を指摘する報告書を提出している(注2)。 JVCを含む日本のNGOsもこれを踏まえ、今年5月の伊勢志摩G7サミットでもニューアライアンスの改善を求める声明を発表した(注3)。

SDGsの理念の光を政策に当てる

日本政府からは何の反応もなかったが、翌月の6月7日、欧州議会がNAに関し、環境と土地収奪に対するセーフガード対策を欠いているとして、改善を求める決議を出したのである。 NA自体がG8主導で進められてきたものであり、ある意味自己批判とも言えるようなこの決議の背景には一体何があったのだろうか?

欧州議会のプレスリリース(注4)を読めば、市民社会の懸念や主張がしっかりと理解されていることがわかる。例えば、「家族型小規模農家を支えることがアフリカの飢餓に対応する最も効果的な手段」「アジアの『緑の革命』と同じ轍を踏むべきではなく、化学肥料や農薬の使用は制限されるべき」などをNAの問題として指摘しているのだ。このことを欧州議会という公的機関が認めたインパクトは小さくない。

そのなかで筆者が注目したのは、逆転とも言えるこの政策志向性の変化の背景にはSDGs(持続可能な開発のための目標)の存在があるのではないかということだ。決議を求めて欧州議会に出された報告書を読むと、最初に欧州議会がこれまで関連して賛同してきた国際条理がズラッと並べられている。その冒頭に掲げられているのがSDGsなのである。

SDGsについては、その策定段階で込められた理念を私たちがどう読み取り解釈するかが大事である。そこで筆者が着目したのは、一つ一つの目標よりも、すべてに通底する「実施手段」、項目71(注5)で指摘されている目標間の不可分性である。すなわち「政策間」の一貫性が重要ということだ。例えば、MDGsに対し政府は自国に都合のよい目標だけをつまみ食いして、「貧困削減のためには経済成長が必要だ」として大型開発事業を進め、引き起こされる環境破壊や人権侵害には目をつぶる「御都合主義」がまかり通ってしまった。それに対し、SDGsは「実施手段」で不可分性を協調することで、そうした「御都合主義」をなくし、今までとは違うやり方、持続可能な社会をつくるための新しい方法を創造することを求めているのである。

NAに戻って言えば、欧州議会は、NAを環境や人権に対する配慮を欠いている「時代遅れの産物」と見なしたということなのだろう。SDGsが報告書の冒頭に書かれている意味は、そこにある。

ある気候変動に関する会議で、今はOECD次長になっている知己の財務官僚が「日本は政策一貫性に最も遅れている国の一つである」と述懐していた。持続可能な社会のために、何を前提として政策を組み立て、配置の軸とするのか、私たち市民社会も包括的な視点から政策のあり方を考えていくべきであろう。

◎注1:http://ngo-jvc.info/2dRzsCg (外務省サイト)
◎注2:http://ngo-jvc.info/2dolIvL (EUサイト)
◎注3:http://ngo-jvc.info/2dOAqv4 (JVC公式サイト)
◎注4:http://ngo-jvc.info/2dYtoER(EUサイト)
◎注5:SDGs項目71「我々は、実施手段を含む本アジェンダ及び持続可能な開発目標とターゲットは、普遍的で、不可分、相互に関連していることを再度強調する」

No.323 イラク戦争は共存の社会を壊し憎悪を生み続けている (2016年10月20日発行) に掲載】