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ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第6回

モザンビークの農民を「弱く貧しい者」と見てしまう構造

南アフリカ事業担当 渡辺 直子
2014年6月13日 更新

ODAのプロサバンナ事業に関する連載。6回目の今回は、事業そのものの問題というよりも、その背景にあって今の世界を取り巻く「アグロフードレジーム」について指摘する。(編集部)

「弱い個人」とは誰か?

「モザンビークは現在投資先として大きな注目を浴びており、この世界経済の流れは長い目で見て止めることができない。彼らの生活も変わらざるを得ない中、対応していけるようにすることが私たちに課せられた命題である」

これは、昨年十二月四~六日にかけて私がプロサバンナ事業地であるモザンビーク・ナンプーラ州と首都マプトを再訪、事業実施者側である日本大使館やJICAを訪問した際、彼らの発言に共通していた主張だ。これを聞いて私は驚いた。確かに時代の流れに沿って生活の変化に対応できるようにしていくことは必要だろう。だがそもそもその投資がモザンビークの人たちのためになっているかを問い直す必要はないのだろうか。

この一月、安倍総理はモザンビークを含むアフリカ三ヵ国を訪問、最終日に行なったスピーチのタイトルは『「一人、ひとり」を強くする日本のアフリカ外交』だった※注(1)。一方、これまで私がアフリカの人びとと活動をしてくる中で強く実感するようになったのが、いわゆる「貧困層」と呼ばれる人たちに出会ったとき、その状態は彼ら自身の能力や知識不足、弱さ等に起因するのではなく、いま私たちの周囲を取り巻き、当たり前のものだと思い込んでいる社会(構造)のほうに問題はないか、と疑ってみる必要があるということだ。実際、彼ら「一人、ひとり」は実に様々なことを知っていて、農業に限らず生活全般における能力に長けている。であるならばそんな彼らを「生きづらくさせている何か」があるのではないかと思ったのである。

貧しさを規定する構造

現在「つくって、食べる」ことの間には、種子・農薬・肥料・農機などを扱う農業生産資材部門、流通を担う農産物取引部門、食品加工部門、食品小売・サービス部門など様々な産業が関わっているが、いずれの段階においても穀物メジャーに代表される多国籍企業が大きな影響力を持っている。彼らが力を持つに至った過程では、並行して彼らに都合がいい保護や規制、仕組みが形成され、このことがまた「巨大化」をもたらしてきた。そしてその過程で政治や経済のグローバル化と相互作用しながら、彼らの存在を正当化するためのイデオロギーが形成され、自由貿易と投資促進こそが世界の食料安全保障に資するのだとするアグロフードレジーム※注(2)がつくりあげられてきた。その結果、現在主要農作物の世界貿易は上位三~六社の多国籍企業が六〇~九〇%を占めている※注(3)。だがその一方で、地域で生産したものを地域で循環させ、食べるという「身土不二」に基づいた農と食の関係が立ち行かなくなり、地域に根ざした自給的+αの農業などは「貧しい」こととされてきた。食べることは生きる上での基本であり、農と食にまつわるシステムは私たちの日常生活の様々な領域に分かちがたく食い込んでいる。このため私たちは、それが意図的につくられてきたにもかかわらず、知らず知らずのうちに今ある仕組み、社会を当たり前のこととして受け入れ、「貧しさ」を規定するようにもなっている。

「ノー」と言う勇気、それを受け止められるか

このような大きな力が押し寄せているにも関わらず、「貧しい」と呼ばれるモザンビークの農民たちは自分たちの農業に誇りを持ち、投資を中心とした開発のあり方を客観視した上でそれにノーを突きつけ、小規模家族経営農業を基本とした将来のビジョンを示している。すごいことだと思う。これまで出してきた声明※注(4)の中で、彼らは自らを「生命や自然、地球の守護者」と呼び、「小農による農業は地域経済の主柱であり、開発政策は国内消費のための家族経営主体の小農部門の食料生産であるべきで、その内発的な潜在性を発展させることを試みるべき」として、「土壌の尊重と保全、適切で適正な技術の使用、参加型で相互関係に基づく農村開発といった農民の基本に基づいた生産モデルを提案」している。

政府、市民社会に関係なく、我々「外部者」が開発として関わる意義は、現地の人たちがノーと言った時代の流れや社会経済システムをそのまま受け入れて対処療法を施すことにはない。目指すビジョンに沿って彼らが社会変革していけるよう、仲間としてともに考え、サポートし、互いに学び合うなかで自らの社会にもそれを還元していくことにあるのではないだろうか。折しも二〇一四年はFAOが定めた「国際家族農業年」だ。この事業の問題を通じて自分たちを取り巻く食や農業、あるいは社会のあり方を見直す契機としていきたい。

※注(1)安倍総理のスピーチ全文:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000023954.pdf

※注(2)特定の企業や国による寡占状態、思考など言論空間の征服を含んだ農と食をめぐる世界の支配構造。

※注(3)『食と農のいま』池上甲一、原山浩介編、2011 年、P.60。

※注(4)このページに声明の一覧ありhttp://ngo-jvc.info/1cy6JE8

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No.307 JVCはアジアで今後何をすべきか (2014年2月20日発行) に掲載】