\n"; ?> JVC - 【no.306 特集-3】 圧倒的な政治的格差のなかにあって - Trial&Error掲載記事

【no.306 特集-3】 圧倒的な政治的格差のなかにあって

現地代表 金子 由佳
2014年3月18日 更新

絶望的な状況が今も

六十五年もの長い間解決を見ない、国際紛争の代名詞ともいえるイスラエル‐パレスチナ問題。初めてパレスチナを訪問した二〇一一年、胸が詰まるような、やるせない気持ちがこみ上げてきたのを覚えている。高さ八メートル、距離七百キロにもなる巨大な分離壁によって囲われた大地、大事にしてきた家や土地は奪われ、オリーブの木と共に農地は破壊され、すべてを奪った者たちが「のうのう」とそこに住んでいる。抵抗すれば投獄され、有り得ないような不平等に抗いながらも、結局人々は強大な力に屈服するしかない。「いつか正義は行なわれる」という論理はここには無く、二回に及ぶ民衆蜂起(インティファーダ)が封じ込められた今、自ら戦う術もパレスチナ人には無いように見える。

歴然と横たわる力の差を目の当たりにした私は、ここの問題は「紛争」ではなく、一方的な「支配と占領」だと感じた。と同時に、ここの問題を「紛争問題」として当事者間の責任に留めるのではなく、問題解決に向けたマクロ・ミクロレベル、官・民、イデオロギーを超えた協調・支援が必要不可欠であると感じた。

ただ、JVCに入って実際現地で活動を開始してみると、一個人の私にいったい何ができるのか? と自分に問わない日は無い。平和的解決の象徴のように見えた九三年のオスロ合意以降も、国際法違反であるイスラエル人による入植行為は猛烈な勢いで拡大している。この間十五万戸のパレスチナ人の家屋が破壊された一方で、イスラエル人の入植者家屋は五十三万戸も増えた。またガザ地区においては、〇六年の軍事封鎖以降、千六百人近くのパレスチナ人がイスラエルからの空爆、攻撃によって殺され、今日もいつ始まるとも知れぬ大規模空爆に人々は怯えている。

「私たちに何ができる? もう何も残っていないじゃないか?」。自分たちを嘲笑するかのように同じ言葉をつぶやくパレスチナ人に、今まで何人出会ったことだろう。「何をしても無駄なんだよ!」分離壁の写真を撮っていた時に、そう怒鳴られたこともある。また、イスラエル人からは「こちらがやらなければやられるだけだ」と言われたこともある。

問題が固定化すればするほど、パレスチナ人もイスラエル人も「状況の打開策なんてないのではないか?」と体感している。そして、「本人たちが信じていないものをどうやって手助けできるだろう? そもそも、そういう人たちに『平和に仲良く生きてほしい』と願うことはあまりに一方的で、傲慢(ごうまん)で、偽善的で、身勝手な発想なのではないか?」とすら思えてくる。

「存在することが抵抗」

ただそんな悶々とした考えに陥る時、マクロ的解決だけが、現地に身を置いて活動する意義ではないと自分に言い聞かせる。例えば、私がパレスチナで活動しようと決心した理由のひとつは、パレスチナ人の粘り強さを目の当たりにしたからでもある。「存在することとは、抵抗する事である」。ヨルダン渓谷を中心に展開する現地のNGOのスローガンだ。パレスチナ人の中には、それでも占領への抵抗を続けている人がいるのだ。そしてそれら一つひとつの活動は、非暴力のデモであったり、アドボカシー活動であったり、文化や言葉を守り続ける姿勢だったり、ただそこに住み続けようとする姿勢であったりする。まさに、彼らの存在そのものが、状況を打開するための抵抗であるかのように、草の根レベルでの活動が続いている。

JVCが支援しているガザのNGOであるArd El Insan(AEI/「人間の大地」)も、そんな粘り強いパレスチナ人が作った現地NGOのひとつで、子どもの栄養状態の改善事業を、地域の人々と共に粘り強く実施している。「人々自らが、自分たちの価値を見出せるように、自分たちで問題を解決できるように支援するのが大切だ」。AEI代表のアドナン医師は口癖のように言っている。そういう言葉を聞いていると、パレスチナの人々にとって必要なことは、人々に寄り添って人々と共に歩むその姿勢そのものではないかと感じる。

国の枠組みにとらわれずに

このような草の根レベルでの市民連帯は、パレスチナ‐イスラエル問題の様な、国家や世界政治が生み出した絶対的暴力に対する、オールタナティブな抵 抗になり得るのだとも考えている。そもそも、NGOの利点・役割は、「国」という枠組みにとらわれずに活動できるということにある。私たちが国家の枠組みを越えることができれば、国家的・政治的エゴに基づく土地の奪い合いから解放されて、一人ひとりを大事にする、市民レベルの共存の道が開けるのだと信じたい。JVCパレスチナ事業は今年で二十二年目を迎える。現地での活動を通じて、少しでも日本と現地の人々がつながりを強め、希望の灯を燃やし続けたいと思う。

No.306 「人道支援」の最前線にあって考える (2013年12月20日発行) に掲載】