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ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第2回

農民に向き合えない農業支援とは

南アフリカ事業担当 渡辺 直子
2013年5月13日 更新

前号から連続してとりあげているODAのプロサバンナ事業。2回目の今回は、「農民主権」という視点からこの事業の問題点を見てみたい。(編集部)

モザンビークから招へい

去る二月二十四日~三月一日、日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるモザンビーク北部地域における大規模農業開発事業「プロサバンナ」に関連して、日本の市民社会の招聘で、UNAC(モザンビーク全国農民組織)の二名と同国の環境団体JA(Justica Ambiental) の一名が来日した。外務省やJICAとの面会や一般向けセミナーを通じて、彼らが語ったことをお伝えする。

現在、モザンビークでは人口の七割が農村部に暮らして自給的農業を営み、国内総生産の三割を生み出している。プロサバンナ事業の対象地域においても、家族的経営農業のもと主食のメイズや豆、葉物野菜や根菜類など様々な作物が収穫されている。「サバンナ地域」というイメージに反して雨も降ることから森林も豊富で、人びとは森林からも木の実や果実、動物などの多くの食料を得ている。

プロサバンナ事業は、こうした地域において千四百万ヘクタールという莫大な土地を開発し、輸出用大豆の栽培を目的とするものだ。当然のように小農の土地は収用され、森林も伐採前号から連続してとりあげているODAのプロサバンナ事業。2回目の今回は、「農民主権」という視点からこの事業の問題点を見てみたい。(編集部)ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第2回されるだろう。事業を推進する側の外務省・JICAも、すでに対象地域の住民移転の可能性を認めている。そして現地の農民たちはこの事業に関する適切な情報にアクセスもできず推進プロセスに参加もできないことから、大きな不安を抱えている。

「話を聞いてくれ、そして参加させてくれ」

このような状況に対して、来日した三名が一貫して訴えていたのは、「事業実施に際して、まず自分たちの声を聞いてほしい」というごくシンプルで当たり前のことであった。こんな簡単なことを伝えるために、はるばる日本までやってこなければいけなかったのである。

外務省・JICA側は「地域の農民にはすでに情報提供しており、彼らは誤解している。プロサバンナ事業はあくまで小農支援を目的としており、NGO側と考えていることは同じだ」と主張する。それではなぜ前述のような不安や互いの間の理解に齟齬が生じるのだろうか。

本件に関する「NGO外務省定期協議会」の議論の中で、外務省のとある担当官が「彼ら小農は"貧しい"。だから私たちは彼らを"リッチ"にしてあげたい」から支援するのだと発言しておられた。この発言のもとにある価値観の主語はあくまで「私たち」で、その視野にモザンビークの人たちが入っているとは考えづらい。こうした発言の根底には、「低投入な農業は低生産であるから自給的農業は貧しい」→「よって商品作物を栽培・販売させて収入を増やすのがいい」→「それこそがモザンビーク政府が進める『食料安全保障』にもつながる」という考え方がある。

しかし、農業とは本来「商品」ではなく「食料」をつくる営みであり、余剰を売るのが基本である。また、そもそも、「低投入=低生産」という考え方が必ずしも適切ではないことは、すでに世界中の有機農家やJVCのような活動によって実証されてきている。

農の価値に向き合えるか

外務省のこうした考えに対して、UNAC代表アウグストさんは「私はここで何十年にも渡り土を耕してきた。この土地に何が合うのか、自分たちが何を栽培し、何を食べたいのかは我々が一番よく知っている。だからまず我々に何が必要かを聞いてほしい」と断言した。先の外務省の発言からは、モザンビークの小農自身および彼らの長年にわたる経験・知見に対する敬意が微塵も感じられない。これでは言葉が届かないのも当然だろう。

「いや、我々も農民組織とは対話している。しかしどの農民組織の声を聞くかはモザンビーク政府が決めることであって我々の責任ではない」という立場を取る外務省・JICA。対してUNACアドボカシー担当ヴィセンテさんは「あなたたちは本当にそう思っているのか?これは誰に責任や権限があるとかそういう問題ではない。人としてのモラル、人間性そして連帯の問題なのだ」と訴えた。

プロサバンナ事業が真に彼らのためのものであるというならば、現地の農民たちを取り巻く状況に真摯に目を向け、声に耳を傾け、ひいては彼らの農業における工夫や日々の営み、家族や仲間のために食料を生産する喜びや誇りをも視座に入れて事業を検討するべきではないだろうか。現地の農民たちに敬意を示し、あくまでも彼らを「主語」として支援の方法を考え、実施する。「農民主権」の視点においては、我々支援する側の人間性をも問われているのである。

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No.301 生き残った私たち3 (2013年4月20日発行) に掲載】