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ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第1回

モザンビーク・プロサバンナ事業とは何か?

調査研究・政策提言担当 高橋 清貴
2013年3月12日 更新

今号から数回にわたり、モザンビークにおけるODA 事業「プロサバンナ」を取り上げる。JVC の直接的な活動地ではないが、この事業をとりまく問題点を整理していくことで、現在の開発援助を考える上で重要な視点を提示したい。(編集部)

プロサバンナ事業とは

「プロサバンナ」(ProSAVANA-JBM)というODA事業を知っているだろうか? 正式には「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム」と言い、モザンビーク北部地域の千四百万ヘクタール(日本の耕作面積の三倍)を対象に行なわれる一大農業開発事業である。

「三角協力」とあるように、七〇年代日本がブラジルで行なった大規模農業開発事業(セラード開発、下枠参照)を成功モデルとして、日本とブラジルが連携してモザンビークで実施しようとするもので、その規模は中小農民四十万人に直接、間接的には三百六十万人の農業生産者に裨益(ひえき)すると謳われている。今、この事業が注目を浴びている。それは、様々な意味で関心が集まるアフリカでのこの旧来的な開発事業(大規模な農業近代化)が、あまりに多くの問題を内含しているからだ。

住民意見を聞かない開発、その背景にある土地収用

問題の一つは、十万人近い農民を会員に持つUNAC(モザンビーク全国農民連携)が十二年十月に出した声明にあるように、住民主権が蔑ろにされていることだ。誰のためのプロジェクトかという基本的な問いでもある。声明は、「透明性が低く、プロセスのすべてにおいて市民社会組織、とくに農民組織を排除することに特徴づけられるプロサバンナの立案と実施を非難する」と訴える。この事業の実態は、地域の人々のニーズから立ち上げられたのではなく、アフリカへの参入を画策する日本政府の積極的な働きかけで作られた事業である要素が大きい。地域の農民が知らないところでどんどん進む農業開発事業に対する強い懸念の表明である。

農民がこうした意思決定プロセスに懸念を持つ理由は、他でもないアフリカで土地収奪がものすごい勢いで進んでいるからだ。土地問題に関する専門家ネットワークであるLAND MATRIX によれば、モザンビークは土地取引件数で世界第二位。特に、〇七年の食料価格高騰以降、急速に増加している。地域の小農らは生活に必要な食料や資源を得るために、農地、林地、水源地を伝統的・慣習法的な手法で利用してきた。そうした彼らにとって、土地を使用する権利が奪われることは死活問題だ。土地法によって農民の土地の使用権は認められてはいるが、土地取引が進むモザンビークで実質的にどこまで守られるか予断は許さない。

加えて同事業は、セラード開発をモデルとしていることからも明らかなように、農産物輸出を重要な目的としている。このセラード開発でブラジルのアグリビジネスは大きく成長した。そのブラジルのアグリビジネスが、このプロサバンナ事業を通して虎視眈々とモザンビークへの参入を狙っているとされる。これによる土地収用が進めば、土地を奪われた小農は輸出用作物生産のための農業労働力に転向せざるを得なくなるだろう。農地や住宅を直接奪われなくても、アグリビジネスの一大農地が同地域の大量の水を消費し、化学肥料や農薬を多投し、遺伝子組み換え作物を導入すれば、小農民の生産にも様々な影響が及ぶだろう。

この土地収用の問題について、NGO「No! to Land Grab, Japan」がJICAに公開質問状を出したが、回答は「同地域は国有地であり、モザンビーク政府が定めた土地利用制度に基づき、将来モザンビーク以外の国からの民間資本による農地利用の可能性がある」であった。あくまでもモザンビーク政府次第ということなのだろう。

誰のための開発なのか

モザンビークの農民たちは今、こうした様々な不安の中にある。そのような事業を「南南協力」という名前でODAの成功例として推進する前に日本の外務省やJICAは、まず農民の懸念に耳を傾け、事業のあり方を「誰のための開発事業か」という根本から見直すべきだろう。今年からODA政策協議会の一環として、この問題について定期的に外務省・JICAとNGOで意見交換会をする運びとなった。また、NGOの側も二月末に、モザンビークから先のUNACの農民を日本に招待し、セミナーや院内集会を企画している。

今年六月のTICAD開催に向けて、アフリカに対する関心が高まれば、この事業も注目されてくるだろう。事業には、「責任ある農業投資」のあり方から私たち自身も含む食料安全保障のあり方まで、まだまだ多くの問題が絡まっている。JVCでも継続的にフォローし、「食と農」のあり方を議論する中でODA改革につなげていきたい。

【セラード開発事業】
ブラジル中西部に広がる熱帯サバンナで「不毛の地」と呼ばれたセラード地帯を、土壌改良の技術協力、企業との連携、農地造成や生産費の資金提供などをODAで行ない、大豆やトウモロコシを生産する世界有数の穀倉地帯に変貌させた事業。ブラジル版「緑の革命」と言われている。その反面、深刻な環境破壊などを招いたとして批判されている。

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No.300 消えない傷の代償を誰が支払うのか (2013年2月20日発行) に掲載】