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イラク事業終了

ピースヤード(平和のひろば)の活動をふりかえる

元イラク事業補佐 中野 恵美
2021年9月 1日 更新

JVCは、2009年、イラクのキルクーク市で現地NGOをパートナーに、背景の異なる子どもたちが平和共存を学ぶ「子どもたちの平和ワークショップ」を、15年からは避難民の子どもたちへの心のケアを加えた「ピースヤード」を実施。約730人の子どもが参加した。これらの活動は、JVC の事業再編の議論を経て20年度で終了した。終了までの経緯を報告する。

お絵描きや工作をしながら平和のイメージを広げる。互いに言葉が通じなくてもやりやすい活動でもある(写真は2018年7月)お絵描きや工作をしながら平和のイメージを広げる。互いに言葉が通じなくてもやりやすい活動でもある(写真は2018年7月)

異なる背景をもつ子どもたちへの「平和ワークショップ」

イラクのキルクーク市にはアラブ、クルドほか多様な民族が暮らし、過去の政策や石油資源の利権をめぐる争いなどから、民族間の対立感情が厳しい。

JVCは、2009年、そのキルクーク市で、現地NGOのINSAN(インサーン)をパートナーとして、現地の子どもたちが民族や宗教の壁を越えて交流しつつ平和共存を学ぶ「子どもたちの平和ワークショップ」を軸に、地域社会の和解を支援する活動を始めた。

目的は、異なる背景を持つ子どもたちが相互理解を深めることで地域社会の和解の一助となることだ。また、保護者や地域社会にも働きかけ、活動が地域全体のものとなることも目指した(本誌300号参照)。しかし想定通りに進まず、13年度に活動を一時停止した。

JVCスタッフらがイラクを訪問してINSANスタッフらと議論し、現地状況の厳しさ、活動にかけるINSANの熱意、支援の必要性を改めて確認することができ、翌年度からの活動再開を決めた。

ところが、14年に入り過激派組織ISが台頭し、現地情勢が急速に悪化。イラクの人口約3500万人のうち約600万人が住まいを追われたため、計画を変更しINSANを通じて緊急支援を実施。キルクークの約350世帯に計4万ドル規模で食料や生活物資を配布した。

「ピースヤード」の開始

「平和ってどんなこと?」とイメージを出し合い共有しながら、自分たちの「平和の木」を作った。紛争下で、初めは「平和」をイメージできない子も多い(2020年)「平和ってどんなこと?」とイメージを出し合い共有しながら、自分たちの「平和の木」を作った。紛争下で、初めは「平和」をイメージできない子も多い(2020年)

その緊急支援の一方、JVCとINSANは、「子ども平和ワークショップ」に避難民の子どもも翌15年から受け入れようと決めた。そうして開始したのが、心のケアを加えた「ピースヤード(平和のひろば)」 だ。

対象となるのは、8~12歳の避難民・地元住民の子ども約50名。民族的・宗教的な背景や性別を考慮して受け入れた。平和共存がテーマのワークショップを軸に、3週間のプログラム(週3回ペース)を2回実施。心理学者らが参加者の心のケアにもあたった。紛争による緊張感の中、子どもたちのための「居場所づくり」の意義は大きかった。

また、この15年は、イラク事業として初のクラウドファンディングに取り組み、約64万円の寄付をいただいた。

以後20年度まで毎年60名前後を対象に15回前後のワークショップを実施しつつ、保護者会や修了式で平和共存の概念を伝えた。修了式には保護者、地域住民、学校や自治体関係者、報道関係者など計90人が参加した。

18年度、JVC側に専任の担当(非常勤)を就け、発信やイベント実施など活動の幅が広がった一方、人件費が増大し事業収支が赤字となった。予定していた寄付が入らず、国内の助成金や海外のファンドも不採択となった。また、現地情勢が厳しく、訪問して活動状況を直接確認できない状態が続いた。

19年度に再度クラウドファンディングを実施、約573万円の寄付をいただき、内一部を翌年度の事業実施分とした。一方、JVC内での議論を経て20年度末での事業終了が決まった。

20年度、コロナ対策のためイラクでの外出規制が続き、ピースヤードは計画の約半年遅れで従来の約半数の参加者にて実施。また、事業終了にあたりINSANとJVCがそれぞれに報告書を作成した。

直面した課題、そして成果

この6年間、常に課題と直面した。「平和共存への取り組み」「心のケア」という変化が見えにくい活動で、その成果を示しての支援呼びかけが難しく、資金的に厳しかった。

現地の治安状況が厳しく、訪問が難しい状況が続いた。訪問しても短期の滞在になり、現地での変化や成果を詳細につかめず、事業運営および支援者へのアピール・報告に難しさがあった。

さらに新型コロナの影響も受け、一時は活動自体ができない状況になった上、日本からの渡航もさらに難しくなった。

だが、そういうなかでも、JVCとINSANの活動には一定の成果が見られたのは事実だ。

◎ISの影響下での緊張状態の中、子どもたちに「居場所」を提供した。
◎社会状況から対立感情を持ちがちな子どもたちが、出会い交流する場を提供した。
◎現地の教育や社会で軽視されがちな「人権」や「平和共存」の概念を伝え、平和共存に向け種をまいた。
◎ISの影響で心に傷を受けた子どもたちにケアを実施した。
◎参加者やスタッフの中から、平和や人権問題に取り組む人が複数出ている。
◎日本とイラクの人をつなぎ、イラクの状況を伝え、考えるきっかけを作った。

これらの活動に、6年間で約400人の子どもたちと、約600人の保護者・地域住民・地元有力者らが参加した。JVCの事業終了後も、この人々がINSANを核に活動を続けることが期待される。



以上のとおり報告いたします。
これまでご支援いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
私たちが支援してきた子どもたちがやがて大人になり、今後イラクに平和をもたらす一助となることを願っています。

No.347 東エルサレムにおける女性の生計向上とエンパワメント事業 (2021年7月20日発行) に掲載】