プロサバンナ事業の行方はいまだ予断を許さない。今号でご報告する事態を受け、日本のNGOは、事業の現状と問題点を取りまとめた抗議および事業の抜本的見直しを求める要請書、ならびに公開質問状を外務省・JICAに提出した(注1)。ぜひ記事と合わせてお読みいただき、日本の援助の実態をウォッチし続けていただきたい。
説明とやっていることの齟齬
開いた口がふさがらないとはこのことだ。ここまでしてやりたいこととは何なのか。
昨年4月に開催された事業のマスタープラン・ドラフトに関する公聴会が、当事者であるモザンビークの農民たちにとってまったく意味あるものとならず、公聴会の「無効化」を求める声明が、世界の80を超える団体が賛同する形で、現地の農民組織、NGO、教会、研究機関などから出された(注2)。これに対し、昨年9月、モザンビーク政府が来日し、外務省・JICAとともに「公聴会は無効にしないものの、再度開催」し、「UNAC(モザンビーク全国農民連合)をはじめとする農民組織とNGOに、事前に開催方法について意見を聞く」と約束した。
だが、蓋を開けてみれば、約束と真逆の事態が進行している。
10月下旬になっても現地で何ら動きがないことを受け、10月27日の外務省・JICA・NGO間の第13回意見交換会で状況確認したところ、JICAは「モザンビーク政府が一生懸命議論中」と回答、12月8日の第14回意見交換会でも「あまり状況はかわっていない」とされた。一方、11月下旬に入り、現地NGOやUNACからは「JICAに雇われたコンサルタント」が自分たちの団体を「個別訪問」し、そのスタッフ個々人と「個別に協議している」という「不穏な動き」に不安を抱えているとの連絡があった。このため、これについても12月の意見交換会で確認したところ「今はまだ話せる状況ではない」として、「日本の支援の枠内か」との質問については「いいえ」と否定された。
これでは埒が明かない。そこで、国民の開示請求権と国会議員の国政調査権を行使して公文書を入手した結果、驚くべき事実が判明した。
実際はこうだった。10月7日にJICAより特定の3社にメールで「市民社会関与プロジェクト」の応募要請が送られ、11月2日には現地コンサルタント企業・MAJOL社と契約が結ばれていた。応募要請書および契約書には、コンサルタントの業務内容として、プロサバンナの関係者/団体の参加状況改善のため、「対話プラットフォーム」を作り、「1月中に最初の会合を行う」とあった。そのためにプロサバンナの関係者/団体との「個別協議」を行い、「対話」への参加に「意欲を示している」団体を特定し、これらの団体と1月の会合の準備を進めることが書かれていた。これが前述の現地からの情報にあった「JICAに雇われたコンサルタント」
による活動だ。つまり、10月初旬には、「対話」の手法やプロセスの期限が全て決められていたということになる。これでは、隠ぺい、虚偽のそしりは免れないのではないか。
◎注1:声明はこちら、 公開質問状はこちら
◎注2:http://ngo-jvc.info/1XrDEna、 http://ngo-jvc.info/1Wob0VN、http://ngo-jvc.info/1ViDEb9など
「参加」の違いが意味すること
これらのプロセスの結果、抗議の声を上げる組織は排除された。そして排除しておきながら「農民組織の参加」というお墨付きがほしいプロサバンナ事業実施者は、UNACの「参加」を取り付けるため、その農民リーダーたち一人一人を脅し、圧力をかけている(注3)。
一方、モザンビークの農民たちは、これまで一貫して、自分たちの声を聞いてほしい、事業策定プロセスに「参加」したいと主張してきた。なぜ同じ「参加」の話をしながらここまでのすれ違いが生じるのか。後者の自らの社会における主権を求める声に対し、前者は、農民たちが「そこにいればいい」という技術的な話をしているにすぎない。事業実施者側がこの決定的な違いを理解できないがために、いま、農民たちは命の危険を感じながら闘うことを強いられている。JICAが提唱していた「参加型開発」も地に落ちたものだと思う。
今年2月の第15 回意見交換会で上述の事実をすべて並べて状況確認したところ、JICAによれば「契約書の業務指示はあくまでも目安」であり、「すべては現地NGOのオーナーシップで進められて」おり、先の発言の「どこが虚偽かわからない」そうである。
責任放棄も甚だしい。いったい誰の、何のための開発なのか。もはや怒りを通り越して、情けない気持ちになる。
◎注3:注1の「声明」のP8「6.小農の連帯・エンパワーメントを損なうUNAC への介入・圧力・分断の促進」