\n"; ?> JVC - 「説明・約束」と異なる 「現実」を前にして - Trial&Error掲載記事
ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第4回(1)

「説明・約束」と異なる 「現実」を前にして

南アフリカ事業担当 渡辺 直子
2014年6月10日 更新

ODA のプロサバンナ事業に関する連載。4 回目の今回は、8月6~18日にモザンビークの事業対象地を中心とした訪問調査に赴いた2名のスタッフによる報告が中心だ。この調査は、「モザンビーク開発を考える市民の会」を始めとする複数の日本の団体によって共同で実施されたもの。帰国後に事業の中断と見直しをもとめる声明を発表(9月30 日)、調査の詳細な報告書も10 月末公開を目指して作成中である。(編集部)

訪問調査を実施

訪問調査に参加するという形で、私は今回初めてモザンビークを訪問した。プロサバンナ事業( 以下本事業) についての経緯を知り、これまで外務省・JICAとの協議にも多少なりとも関わってきたなかで、いったい現地では実際に何が起きているのか、外務省・JICAによる本事業の説明や約束は本当に実施されているのか、直接見聞きして確かめたかったからだ。
結論から言えば、「説明・約束」と「現実」の間には大きな齟そご齬があったと言わざるを得ない。以下、外務省・JICA側が示してきた「『小農は土地を有効活用して生産できておらず貧しい(1) 』ために本事業は『投資によってモザンビークの小農を豊かにする(2)』ことを目的としており、事業内容については『時間をかけて対話していきたい(3)』」という三つのポイントにしぼって報告する。

(1)「土地を奪われたから使えなくなったんだ」

今回の調査では、本事業対象三州において、JICAによる本事業のパイロット事業※注(1)とその契約企業、「土地収奪」の六ヵ所の現場、市場や関連NGOを訪問して聞き取り調査を実施した。なかでも強烈に印象に残ったのは、「土地収奪」の現実だ。Lurio Green というノルウェー企業によって土地が奪われた村で私が聞いた話はこうだ。

「二年前くらいに会社の担当者が政府関係者と来て、ユーカリ植林に使う土地を欲しいと言ってきた。学校や病院の建設を約束されたし、植林後も主食のキャッサバやメイズを植えられる、と聞いた。だから昨年、村の土地の一部の使用許可を与えた。しかしその後、約束されたものは今も一切もたらされていない。植えてあったキャッサバは引き抜かれた。それどころか、会社は約束の範囲を超えて、村のもっとも肥ひよく沃な土地にも植林し始めた。以前は主食も含めて二十種類以上の作物を育てていたし、村人は家族を養っていける充分な収穫を確保できていた。いまは土地を失ったから、食べ物がつくれなくなってしまった。このままでは飢えてしまう。耕作地を求めて村を去る人も出始めている」

(2)誰のための農業投資か

国連機関が発表する人間開発指数などを見れば、モザンビークが様々な課題を抱えていることは確かである。しかし、前述したような以前の生活の様子を聞いた限りでは、それが「貧しい」とは正直思えなかったし、彼ら自身も自分たちの生活に課題はあるにせよ、それを作物の生産量と結びつけて認識してはいなかった。

本事業は「モザンビークの小農のため」とされる一方で、「農業開発で生産された大豆を日本に輸入」し、「日本の食料安全保障に貢献する」とも喧けんでん伝されている。そして、本事業の対象三州では、本事業の契約が結ばれた〇九年以降に農業投資が増えており、その多くが大豆を生産している。前述のLurio Greenも植林から大豆生産に切り替え始めている。この傾向は、国内でこの三州に限られている。このことから、本事業が農業投資を呼び込み、その投資が貧困をつくりだしている、という構造が見えてくる。

(3)対話とはなにか

調査に先立って七、八日に開催された「市民社会会議」※注(2)においても、前述したような農業投資による土地収奪の事例や、農村部における政府関係者による日常的な抑圧などの報告が多くなされた。本事業に関する情報不足とそれへの不安も訴えられた。しかし、会議に出席した政府関係者たちの発言は、彼ら自身の間ですら相互に齟齬が見られ、誠実さは感じられなかった。

すでに土地収奪が頻発し、しかし本事業の情報は充分には提供されず、社会的背景から農民個々人が大きな声をあげることも難しい。モザンビークの人びとが不安を感じるのも当然である。こうした状況においても、JICAなどの事業関係者が現地で開催してきた「ミーティングの場」では、記録として残る紙の資料は配布されず、口頭での説明に終始してきたそうだ。人びとはこれを一方的な「説明」であり、「対話」ではないと認識している。

このままこのプロサバンナ事業が進められれば、私たち日本人の生活のためにモザンビークの人びとの生活が犠牲にされてしまう可能性が高い。一度土地が取られてしまえば、それを取り返すことは非常に困難である。そうなる前に、JVCは引き続きモザンビークの農民・市民社会などと連帯し、事業関係者との「対話」を続けていく。

※注(1)パイロット事業:PDIF(ProSAVANA Development Initiative Fund)。次ページにあるマスタープランを作成するための事前段階における調査を目的とした事業。

※注(2)市民社会会議:8 月7,8 日に首都マプトで開催された会議。日本・ブラジル・モザンビークの三ヵ国から約200 名の農民・市民社会が参加、8 日にはモザンビーク農業大臣ら政府関係者も参加した。

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No.305 JVC国際協力コンサート (2013年10月20日発行) に掲載】